(12)飛行教育航空隊
新田原基地にはF-15戦闘機パイロットのライセンスを与えることのできる、日本で唯一の部隊がある。
それが飛行教育航空隊だ。
私はそこがそういう場所であることを知らず、暇をみては通った。
とにかく飛行機を見ていたかった。なぜか離発着を繰り返す飛行機を見ていると私は落ち着いた。
やがて私がその部隊に通いすぎると言うことが問題になったようだ。
「あんた、あんまり基地に行きなんなよ」
と、注意してくれる人もいた。
今になって考えると、私は人さまの職場にお構いなしにお邪魔していたことになる。でもその時の私には、自分しか見えていなかった。
それでも私は新田原基地に通い続けた。
その部隊には私を惹きつける何かがあった。
数秒の時差で離陸する二機のF-15。
それを見ていると私は自分の病気を忘れることができた。
隊司令は、多分諦め半分だったのだろう。
いつも私を快く受け入れて下さった。
訓練機をずっと見ていて、私はあることに気がついた。
飛行機は同じように飛び立ち、同じように着陸するのだが動き方に個性が見える。
ある時、隊司令が私に訓練中のパイロットのコックピット内のビデオを見せてくださった。
彼らは自分と戦っていた。そして自分との戦いに勝ち抜いていた。
私は思った。
私が倒れてもせいぜい地面の上ではないか。
彼らが自分に負けたら飛行機は墜ちる。
私は薬を抱えて、怖い、怖い、と言っている自分が恥ずかしくなった。
この時から私は外出を恐れなくなった。
隊司令に見せていただいたビデオのおかげで、自分に必要なのは開き直りであると言うことを知ったのだ。
当時の飛行隊長は私の病気のことを理解していて下さった。だから今でも私の顔見ると「体調はどう?」と尋ねてくださる。
自衛隊についてはもっと深く書きたいことがあるのだが、本来のテーマから外れてしまうので別の機会に書きたいと思う。