パニック障害を通り抜けて、今
⑵救急車に乗って
医師が連絡してくれて救急車はすぐに到着した。救急隊員の皆さんは靴にビニールのカバーをかけ、ストレッチャーを持って、私のいる部屋に入ってきた。
「毛布を一枚下さい!」
救急隊の方は叫んだ。
毛布を待ちながら、救急隊の方と医師が話をしている。
そうしている間に、私の身体の痺れは全身に広がった。
もはや自分では身体を動かすことができない。
娘たちが学校から帰って来た。
二人で「何事だろう」と部屋を覗き込んでいる。
不思議と私ははっきり言った。
「冷蔵庫に冷やし中華が入っているから、食べてね」
もしかしたら、あの冷やし中華が私が彼女たちに作ってやれる最後の食事かも知れない。
そう思うと、再び意識が遠のいた。
毛布を取りに行ったはずの姑が、なかなか戻って来ない。
救急隊員も医師も苛立ち始めていた。
たぶん姑は、死体を包む毛布になるのか、生きた身体を包む毛布になるのか迷っていたのだろう。
姑は、やがては犬のものになる古い毛布を持って戻ってきた。
私は一刻も早く自分の陥っている状況から脱出させて欲しかった。
それが「死」であろうが「生」であろうが問題ではなかった。
「トドメを刺して欲しい」
という一心だった。
異様に弾む心臓。
息苦しさ。
楽になれるのならば死んでもいいと思った。
姑の持ってきた毛布を敷いたストレッチャーに移され、私は救急車に乗せられた。